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評価:
中脇 初枝
ポプラ社
¥ 1,470
(2012-05-17)
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中脇初枝さんの短編小説集です。
「サンタさんの来ない家」は、
教師2年目のぼくから見た小説です。
クラスが崩壊しそうになっているのに、
同僚教師も助けてくれないし、
クラスの子とも絆がもてない。
ぼくの家庭は姉も母も父も優しいしあわせな家庭なのに、
クラスにはいろんな家庭環境の子がいるようだ。
ぼくのクラスはどんどん壊れていく。
ぼくがある宿題を出してから、
いろいろ見えてきた。
なんとかがんばれそうになっていく。
今の教育現場や子供たちの話を聞くと、
私も何か役に立ちたいと思うが、
できることはあるだろうか?
「べっぴんさん」
あやねのママは家に帰ると虐待をしてしまう。
人前ではいいママを装っているから、
あやねは公園にずっといたいと思っている。
ひかるくんとはなちゃんのママは身なりがきれいではないが、
心は優しそう。
だけど、きっと、
家の中ではひかるくんやはなちゃんを虐待していると、
あやねのママは思っている。
みんな外と家の顔は違うと思っている。
ひかるくんのママの口癖は、
「べっぴんさん」
この言葉は、
子供に希望を与えてくれる魔法の言葉。
この小説を読んだら、
私にも何かができそうな気がした。
わたしのような大人のおばちゃんに読んで欲しい話です。
「うそつき」
4月1日生まれは、
学年で一番最後の生まれになる。
息子の優介は4月1日生まれで、
小さくて、
いつも先生の近くにいる。
クラスの中で特別扱いされている。
優介は要領は悪いが、
心のまっすぐな子だ。
転校してきた体格のいい男の子(だいちゃん)と仲良しになり、
我が家でご飯を食べるようになった。
母親は後妻で、
その子の本当の母親ではなく、
ご飯も与えられないことがあるようにみえる。
保護者会であった母親は化粧をきれいにした、
若い女だった。
我が家に毎日来ると言ったら、
謝ったが、
迷惑ではなく、
仲良くしてもらってうれしいと伝えたら、
何も言わなかった。
ご飯のお礼はなかった。
だいちゃんは毎日我が家に来て優介と仲良く遊んでいる。
小学校は同じだけれど、
だいちゃんとは中学校の学区が違うからいずれ別れがくる。
「たとえ別れても、
一緒にいたといういい思い出があれば、
幸せな記憶が一生を支えてくれる。」
この言葉はものすごく心に残った。
全世界の小さな子たちに、
しあわせな思い出を作ってあげたいと思った。
「こんにちは、さようなら」
この話は、
もうおばあさんの年齢になってしまった一人暮らしのわたしと、
近所の障害をもった子供と、
その母親の話です。
その男の子は私に会うと、
礼儀正しく「こんにちわ」
「さようなら」とあいさつしてくれる。
最近のこどもにはわたしが見えないのか、
だれもあいさつなんてしてくれない。
あの男の子が挨拶してくれるときだけ、
わたしはまだ存在している実感がわく。
スーパーで買い物をした日に、
お金を払い忘れて、
店員に呼び止められた。
うっかりしてしまって、
謝ったが、
白い目でにらまれた。
ずいぶんわたしも年をとってしまった。
話し相手もだれもいなくて、
何日も人と言葉をかわしていない生活。
雨の日スーパーの帰り道に、
男のこがカギを落としてこまっていたので、
おうちの人が帰ってくる時間まで、
我が家で待っていることになった。
迎えにきた母親は見覚えのある人だった。
これからは、
ひとりぼっちの私にも、
障がいのある子の母親にも、
春がやってくるような希望の持てる終わり方でした。
どの話もうるっとくるような素敵なはなしでした。
「うばすて山」
妹のみわが、
認知症の母を数日だけ、
見ていて欲しいと頼んできた。
母が私にだけ虐待をしていたことを妹のみわは知っているから、
本当に申し訳なさそうに頼んできた。
みわは子育てで忙しいのに、
介護をよく頑張っている。
母と暮らした何日かで、
あの頃のことを思い出した。
けれど、
認知症の母はわたしのこともわからない。
自分は子供のころのふうちゃんに戻ってしまっている。
みわの家に母を送っていくときに、
公園を思い出した。
自分が育った町で、
もっちゃんの母親がわたしをかばってくれていた。
もっちゃんは、「うそつき」に出てくる優介の父親の幼馴染みだ。
「べっぴんさん」で砂場遊びをしている公園がみわの家の近くの公園だ。
こんな風に短編小説は場所がつながっていた。
大人に読んで欲しい小説でした。
うるっときて、
いろいろ考えさせられる小説です。